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Small talk ~紡ぐ~

デジタル版ソーシャルインクルージョンプラットフォーム構築事業:特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構

2024年9月26日

デジタル版ソーシャルインクルージョンプラットフォーム構築事業:特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構

「休眠預金 新型コロナウイルス対応 緊急支援助成」
アディクション等を対象とした緊急支援事業

デジタル版ソーシャルインクルージョンプラットフォーム構築事業
~再チャレンジできるまちデジタル支援プロジェクト~

実行団体「特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構」(大阪府大阪市)
松本裕文さん

特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構
釜ヶ崎エリア※の野宿生活者や野宿生活に至るおそれがある人の社会的待遇改善・自立支援を形成するため、4つの事業を展開。1つめは、高齢者特別清掃、あいりんシェルター※を活用しての居場所支援からなる基礎的支援事業。2つめは、内職作業等を求職者に提供する訓練・就労準備分野に関する事業。3つめが大阪府営公園での職場体験、就労支援を行う社会的企業分野で、4つめは就労・就職に関する相談・サポート事業である。

※釜ヶ崎エリア
大阪市西成区にある釜ヶ崎という地域は、もともと日雇い労働者の町でした。
最盛期には日雇労働者が2万5千人以上と言われていましたが、8,000~10,000人まで減少しています。地域の日雇労働者の高齢化の進展とあいまって、就労できない日雇労働者が困窮し、野宿を余儀なくされる人々が依然として約400人存在しています。
路上死や行路病死に至る人も今でも後を絶ちません。また、現在でも他地域で失業した人が「釜ヶ崎に来ればなんとかなる」と最後の望みをかけてやって来る街でもあります。コロナ禍による失業で全国から釜ヶ崎にたどり着いた人が多数いました。

※あいりんシェルター
臨時夜間緊急避難所として、野宿を余儀なくされているあいりん地域で求職する日雇労働者に向けて、緊急・一時的に宿泊場所とシャワーを無料で提供している


2022年度の休眠預金活用事業実行団体として、特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構が挑んだのは「デジタル版ソーシャルインクルージョンプラットフォーム構築事業~再チャレンジできるまちデジタル支援プロジェクト~」でした。
アディクションや精神障害等で生きづらさを感じている人たちと新今宮エリア※とを近づけるアプリ「新今宮Info」を構築。AR/VR/MR技術と360度カメラ撮影の知識・技術提供で、求職者のステップアップ支援も図った松本裕文さんにお話をうかがいました。

※新今宮エリア
交通の利便性が高い関西一円の交通結節点。
JR・南海「新今宮」駅を中心とする半径約1キロメートルのエリアで、大阪の主要観光地である新世界や釜ヶ崎などの地域を含んでいます。

デジタル版ソーシャルインクルージョンプラットフォーム構築事業について

今回チャレンジしたプロジェクトについて、教えてください。

私たちのプロジェクトの柱は2つ。1つがデジタル版ソーシャルインクルージョンプラットフォームの構築で、もう1つはAR/VR/MR・360度カメラの知識・技術提供(XRの知識と技術の提供)※です。
「デジタル版ソーシャルインクルージョンプラットフォーム」とは、新今宮に点在する支援機関や娯楽施設などの情報を取りまとめて閲覧できるアプリを指します。私たちはこのアプリを、「新今宮Info」と名づけました。

※AR/VR/MR・360度カメラの知識・技術提供(XRの知識と技術の提供)
・AR(拡張現実):スマートフォンやタブレット、サングラス型のARグラスを通してリアルな現実の風景に、さまざまな情報を付け加えて見せる技術のこと。
・VR(仮想現実):CGで構成された映像など現実ではない空間をVRヘッドセッドや専用ゴーグルを装着して見ることができ、その世界に入り込んだような体感ができる技術のこと。
・MR(複合現実):ARをさらに拡張し、頭に装着するディスプレイを通し、実際にはその場所にないものを現実世界と仮想の世界を重ね合わせて表示し、自由な位置や角度から体感できる技術のこと。
・XR(クロスリアリティ):「VR」「AR」「MR」などの先端技術の包括的な総称。現実世界と仮想世界を融合し、新しい体験を創造する技術のこと。

アプリを構築した背景には、新今宮エリアのアディクションや精神障害等で生きづらさを感じている人(当事者)たちの行動傾向があります。当事者の多くが、手持ちのお金が100円以下になってから相談にやって来ます。この行動には、「支援機関の窓口を訪ね、相談する」ことに対する当事者の苦手意識が表れていると言えるでしょう。「アプリなどで事前に、支援機関の内部を見ることができたなら、その苦手意識もやわらぐのではないか」という仮定のもと、アプリを構築。「新今宮のスポット閲覧機能」は、観光を楽しみたい人とも相性がよいため、支援機関だけではなく娯楽施設の情報も組みこみました。
「XRの知識と技術の提供」は、XRの知識と技術を講習会参加者に落としこむ試みです。求職者は、自身の社会における有用性を見失いがちな側面があります。講習で得た知識と技術を活かして仕事に就けたなら、見失っていた有用性を再発見し、自信回復につなげてくれることでしょう。そうした目的で、講習会を開催しました。講習会参加者には、「新今宮Info」アプリ構築で発生する制作業務を発注。すぐに実地訓練に臨める点からも、刺激を受けてくれたのではと考えています。

特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構の取り組みの様子

 

プロジェクト発案の背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

釜ヶ崎支援機構は年齢を問わず、さまざまな方をサポートしています。当事者のなかには壮年・中年期の人もいます。こうした方々は、成功体験も含め、豊富な仕事経験を持っています。対して24歳以下の若年層は、まだそれほど社会での経験を積めていない傾向にあります。自信につながる経験がないまま生活保護を受けるようになると、「自分は役にたたない人間だ」という考えに脳を占拠され、引きこもって1日中スマートフォンを触って過ごすようになりがちです。こうした傾向を、コロナ禍は助長しました。2020年から2021年にかけて、ハローワークをはじめとした支援機関に利用制限がかけられたのですが、「利用が制限されている。そもそも外出を控えてほしいと国が言っている」といった外的要因を理由にして、当事者たちはますます自室から出なくなってしまったのです。

当事者が手放さないものの代表格は、スマートフォン。スマートフォンが与える刺激に勝たなくては、当事者に外へ出てきてもらうことは難しいでしょう。スマートフォンと刺激、2つのキーワードから閃いたアイデアが、XRの知識と技術を提供する講習会の開催でした。講習に参加し、XRの知識と技術を身につけた当事者には、「新今宮Info」アプリに載せる写真や動画撮影を発注しています。制作に携われば、支援機構を含め、新今宮のさまざまなスポットを訪ねられます。仕事を通して施設の内部を知り、そこで働く人と顔見知りになれば、誰かを訪ねるハードルはぐっと低くなるはず。仕事を通して自信をつけてもらうことと、新今宮エリアに親しんでもらうこと、2つの目的のもと、お仕事をお願いしています。

特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構の取り組みの様子

事業の成果はどうでしたか?

講習開催日数、講習への参加者数、そして就労意欲を呼び覚まされた状態の講習修了者数などについて、数値目標を立てました。

成果目標

・研修開催実績数(18回)
・技術習得支援講習受講者数(延べ120人以上)
・講習終了者30人が、就労意欲を喚起され生活の向上・自主的な活動や就労につながっている
・スマートフォンを貸与したAR技術活用型地域イベントへの延べ参加人数(300人)


成果

・研修開催実績数(24回)
・技術習得支援講習受講者数(延べ167人以上。当事者の受講は約80名)
・講習終了者32人が、就労意欲を喚起され生活の向上・自主的な活動や就労につながっている
スマートフォンを貸与したAR技術活用型地域イベントへの延べ参加人数(350人以上)
(2023年2月時点)


技術習得支援講習受講者数延べ167人以上のうち、当事者の受講は約80名。そのほかは高齢の方や、私たちの活動に興味を持ってくれた他の支援機関の方々でした。当事者の受講にしぼると目標は未達となりますが、今後の連携や他地域への波及を考えた時、支援機関の方々に活動を知ってもらえた事実は大きなアドバンテージとなってくれると思います。

研修開催実績数、勤労意欲のある講習修了者数、イベントの参加人数は、いずれも数値目標を超えることができました。この成果をもたらしてくれた立役者の一人は、間違いなくプラスソーシャルインベストメントさんです。「ソーシャルインクルージョンプラットフォーム」や「XR」をプロジェクトの核としてかかげてみたものの、当初はそのビジョンをどうやって形にしていけばよいかが分かりませんでした。モヤモヤした状態で、協力企業への連絡もとどこおらせていたんです。こうした状況を生み出してしまった原因は、大部分が私の性格にあります。このプロジェクトに限らず、私は何ごとも自分のなかで情報を消化しきってから行動に移す傾向があります。今回のプロジェクトでもそんな行動スタイルが前面に出て、自分の理解を優先し、スタッフへの気遣いを後回しにしてしまいました。
第三者目線で見ると、プロジェクトに必要な人員はきちんとそろい、予算もついているので、動かない理由も動けない理由もありません。プラスソーシャルインベストメントさんは、私にとって嫌事になると分かっていて、「動けない理由か、動かない理由は何ですか?」というふうに発破をかけてくれました。嫌われるようなことをわざわざ言う役回りは誰もしたくないものです。私たちのために嫌われ役を買って出てくれたプラスソーシャルインベストメントさん。おかげで私たちのプロジェクトは、お金をもらって格好つけた浅いもので終わらずに済みました。本当に感謝しています。

次のステージへ向かって

現在の活動状況はいかがでしょうか?新たに考えているチャレンジもありますか?

講習会のプログラム再考は、必要だと感じています。「XRの知識と技術の提供」を旗印にした講習会には、「すぐにでも撮影したい」当事者が集まります。一方、講習会のプログラムは、2回までが座学で、3回からが機材を使った撮影、という構成でした。参加者の気持ちとプログラムとの間に、ズレがあったわけですね。それでも当事者たちは、座学を乗り越え、3回めの講習に臨んでくれました。当事者が興味・関心を持つポイントをおさえた講習会と、知識と技術をただ伝えるだけの講習会とでは、当事者が受け取る情報量も変わってくるのではないでしょうか。今後はより当事者の内面に寄り添ったプログラムを組み立てていければと考えています。

インターネットから新今宮への導線確保にも挑戦していきたいですね。XRの知識と技術を集めたプラットフォーム「新今宮Info」アプリを介したインターネット上のコミュニケーションは重要です。ただ、アプリで新今宮を知った方が、実際にこのエリアを訪ねてくれなければ、地域活性にはつながりません。「訪ねてみたい!」という動機づけには、街の魅力アップも大切です。リアル施策としては、新今宮でのウォールアート制作、スタンプラリーを実施してきました。今後はスタンプラリーのバージョンアップを検討しています。スタンプラリーのポイントで「新今宮Info」アプリを起動したら、仮想空間でクイズが始まった。こんな展開、ワクワクしませんか?人を惹きつけるコンテンツ拡充と、新たなランドマークづくりに力を注いでいく予定です。地域が活性化すれば、仕事も生まれてくるはずです。その仕事を、講習修了者をはじめとした当事者にやってもらう。魅力発信と雇用創出のよい循環が生まれることを期待しています。

特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構の取り組みの様子

こうした今後のプランを考える上で、避けては通れないのがお金の問題です。2025年の大阪・関西万博が近づくにつれて、インバウンドの利用などでサービスハブへの転換を遂げた新今宮には、国内外から多くの人が訪れるでしょう。このタイミングに備えて、「日本で唯一、常設XRガイドがある街」として新今宮をブランディングしていきたいと考えています。大阪府営公園150周年とコラボしたXR歴史案内プロジェクトも進行中です。実績を作り、その実績でPRし、より利益率の高い仕事を獲得したい。事業を盤石化して、アディクション問題を抱える当事者たちがいつでもアクセスできる状態に街を維持しておきたい。そんな、開かれた街・新今宮をめざして取り組んでいきます。

メッセージ

社会課題解決に向けて、事業を起こそうと考えている方はまだたくさんいると思われます。
「社会課題解決」に関心のある「未来の仲間」へ向けて、メッセージをお願いします。

「こういった仕組みがあれば世の中が便利になるだろうな」と思った時に、行動を阻むのが資金不足や制度の問題です。そういった部分をケアしてくれるのが休眠預金活用事業だと思いますので、ぜひ社会課題解決に向けて、この事業を活用してみてください。

休眠預金活用事業の先で、民間で仕事をつくることができたなら、当事者と支援者とが同じ方向を向いて助けあう、そんな素晴らしい場所が生まれるはずです。様々な個性を持つ人々が、その場所で力をあわせたら、大きな価値を生み出せると思います。休眠預金活用事業にチャレンジする人が増えたなら、世の中はきっと、より良くなっていくことでしょう。

インタビューを終えて

今回の休眠預金等活用事業により、新今宮に点在する支援機関や娯楽施設などの情報を取りまとめて閲覧できるアプリが構築され、XRの知識と技術を提供する事業が生まれました。

アディクションや精神障害等で生きづらさを感じている人たちの技術習得支援講習受講者数は目標に届きませんでしたが、研修の開催実施などの目標はいずれも上回りました。

講習修了者をはじめとした当事者の方々が事業に携わり、地域の魅力を発信できる土台ができたことで、今後も地域や当事者の皆さん双方の新たな可能性につながっていきそうです。

特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構の松本裕文さん、ありがとうございました!

これまでから現在の活動ついては、以下もご覧ください。

→特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構

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