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Small talk ~紡ぐ~

特別インタビュー「休眠預金 新型コロナウイルス対応 緊急支援助成」『農福学産連携』による支援事業の実現

「休眠預金 新型コロナウイルス対応 緊急支援助成」
アディクション等を対象とした緊急支援事業

実行団体「株式会社ピーエルジェイインターナショナル」
増田清さん、比澤敏彦さん、辰己浩平さん


休眠預金等活用とは?

「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)に基づき、 2009年1月1日以降の取引から10年以上、その後の取引のない預金等(休眠預金等)を社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用する制度が2019年度から始まりました。

プラスソーシャルインベストメント株式会社は、助成金を通じて新たなチャレンジをする事業の成功に貢献したいという思いから、一般財団法人日本民間公益活動連携機構が実施する2021年度、2022年度の新型コロナウイルス対応緊急支援助成(アディクション等を対象とした緊急支援事業)の資金分配団体として、アディクション(依存症)や精神障がい者等、困難を抱えている人たちを対象とした事業を募集し、実行団体の採択、資金助成を行いました。
また、このような民間公益活動の自立した担い手を育成するため、経営・人材支援等の非資金的支援を伴走型で実施しました。

今回は、2022年度の休眠預金活用事業実行団体としてプロジェクトに挑まれた団体のひとつ、株式会社ピーエルジェイインターナショナルのみなさんにお話をうかがいましたので、ご紹介します。

 

株式会社ピーエルジェイインターナショナル
就労支援事業の新しい型『農福学産連携』による支援事業の実現
~奈良から未来へ~サスティナブル農業創造プロジェクト~

株式会社ピーエルジェイインターナショナル
ニットアイテムのOEM事業、銅繊維を使用したニット商品の開発・販売、農業資材の商品開発・販売、就労継続支援B型事業所の運営を行う。繊維事業、農業資材の開発・販売に取り組むなかで、企業として地域社会へ貢献したいという意識が芽生え、就労継続支援をスタート。軽作業を請け負うフレンドワーク、静カフェという2つの施設で、利用者に働く楽しみを提供している。

 

今回チャレンジしたプロジェクトについて、教えてください。

農業と福祉事業をかけあわせ、収益性の向上と、利用者さんに合わせた働く環境づくりを実現するプロジェクトにチャレンジしました。
農業とは、「室内水耕栽培」をさします。耕作放棄地を借りて栽培室を新設し、そこに水耕栽培装置8台と、苗を育てる装置2台を設置。メロンやトマト、イチゴ、スプラウトにんにくといった農産物を栽培しました。
福祉事業とは、アディクションや精神障がい等で生きづらさを感じている人が働きやすい環境づくりと、それを通して就労の喜びややりがいをお届けすることです。

プロジェクトの主軸にしているのは農業と福祉事業ですが、「産」「学」の要素も加えています。「産」は、「室内水耕栽培という新しい農業の形から利用者さんの働きやすさを追求し、継続就労へとつなげていきたい」という私たちの思いです。「学」は、東京農工大学とともに開発した銅シートの活用。農産物の大敵・うどんこ病の原因となるカビの活動を、80%おさえられる銅シートを室内水耕栽培の現場で使い、減農薬・無農薬栽培に向けた研究を同時に進めました。

ピーエルジェイインターナショナル水耕栽培の様子

プロジェクト発案の背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

私たちが運営する就労継続支援B型事業所を含め、世の中の就労継続支援事業所には、「毎月の仕事量が安定しない」という課題がつきまとっています。そしてこの課題は、単に営業を強化して請け負う内職仕事を増やせば解決するというものでもありません。なぜなら、就労継続支援事業所の利用者さんができること・難しいことが一定ではないからです。
頑張って工賃が高い仕事を取ってきても、その仕事をこなせる利用者さんがいない。「できる」という基準で仕事をもらってくると、今度は短納期で工賃が安くなり、とても継続できる内容ではありません。
できる仕事・難しい仕事、工賃の高さ・低さ。こうしたストレスから抜け出し、利用者さんの工賃を上げていくには、「仕事をもらう」という受け身ではなく、自分たち起点で何かを生み出していく必要がある。そう考えて、室内水耕栽培以前にも靴下の廃材を使った雑貨づくりや、カフェ事業にチャレンジしていました。

自分たち起点のビジネスが少しずつ前進し始めたころ、突然やってきたのがコロナ禍でした。靴下の廃材を卸していた道の駅やカフェのお客さんは激減。収益の柱にしていた2つの事業からは、売上が見込めなくなりました。請負の内職仕事も、取引先の廃業、発注元企業自体の仕事の減少といった理由で、仕事量が減少。
突然訪れたピンチの中で、「自ら仕事を生み出す力」の大切さを再認識しましたね。どうしようかと考えるなかで休眠預金活用事業の話を聞き、室内水耕栽培によるメロン栽培計画を実行しようと決意しました。

このメロン栽培計画は、実は約4年前からあたためていたものなんです。メロンをはじめ収益性の高い農産物を栽培して、一部はそのまま販売し、一部はスイーツなどに加工して提供する。そうした6次産業化をめざして、東京都町田市の「まちだシルクメロン」の水耕栽培現場を視察していました。今回の事業の成果目標も、その視察で知った「まちだシルクメロン」の収穫数などを参考に立てています。

 

事業の成果はどうでしたか?

視察させてもらった当時、「まちだシルクメロン」は1株から約60個のメロンを収穫していました。この数字を参考に、1株から50個ほどは収穫できるだろうと予想したんです。当時準備していた株数からして、最低400個のメロンを収穫しようという目標を立てていました。

その収穫数にひもづけて、売上計画も立案。育てたメロンをそのまま販売したり、栽培過程でキズがつくなどしたB級品はスイーツに加工して提供したりといった方法で、売上600万円をめざしました。
初めて挑んだメロンづくり、その収穫数は110個でした。目標の約4分の1の着地となり、加えてスイーツレシピの開発準備が整わなかったことから、売上もこれらの要因に準じる額に留まりました。

成果目標 収穫数約400個 売上600万円(2023年2月時点)
成果 収穫数110個 

数字だけ見れば「未達成」という結果ですが、初めての室内水耕栽培でのメロンづくりは、数字では表せない「可能性」という成果を与えてくれました。その一つが販路です。
私たちのチャレンジは、「室内水耕栽培によるメロンづくり」「大和高田市で初のメロン栽培」といったフレーズで注目を集め、ありがたくもたくさんのご紹介をいただきました。奈良県外のアンテナショップさん、奈良県に進出したJWマリオット・ホテル奈良さんからご注文をいただけたのは、なかでも大きな成果だと思っています。この2施設からのご注文は、初回の収穫数110個を大きく上回るものですので、ご希望数を供給するためにメロンの株数を24株にまで増やしました。

室内水耕栽培でメロンを作っているところは一般企業でもほぼないらしく、香港政府の農業試験場からの視察打診、中国系企業からはスポンサーのお話もいただいています。収穫数や売上こそ悔しい結果に終わりましたが、「つながり」という可能性に目を向けると、私たちのプロジェクトは順調に進んでいると思っています。

ピーエルジェイインターナショナル水耕栽培の様子

次のステージへ向かって

現在の活動状況はいかがでしょうか?新たに考えているチャレンジもありますか?

次のステージについてお話しする前に、私たちのプロジェクトに伴走して、折々にアドバイスをくれたプラスソーシャルインベストメントさんには改めてお礼を伝えたいですね。
プロジェクトの実施期間が半年程度と短かったので、中間報告や終了報告といった事務事項をはじめ、細やかにご連絡をいただき、助けていただきました。
「伴走者」としても感謝していますが、採択を受けた他社さんとの交流の場を設けてくださった点も、ありがたかったですね。同じ休眠預金活用事業でも、他社さんが挑んでいるプロジェクト内容は、当たり前ですが全く違う。有意義な情報交換ができ、とても勉強になりました。

そして、現在の活動状況ですね。現在は、2022年夏から2023年2月までの実施期間では手が回らなかったスイーツレシピの開発を行っています。奈良県立磯城野高校フードデザイン科・パティシエコースの生徒さんという頼もしい協力者がいるので、素晴らしいレシピができると思っています。
栽培と販売に加工が加われば、いよいよ6次産業としての形が整います。そうなれば、「静奈メロン」と名付けたこの室内水耕栽培メロンを、より強いブランドとして打ち出していけるでしょう。

室内水耕栽培のビジネスモデルを、ほかの事業所や高齢者施設などに提供することも始めています。メロンを作ってくれる仲間が増えれば、その仲間たちが収穫したメロンを私たちが買い取って、販売・加工を代行できます。
経済的安定にとどまらず、心にもよい影響を与えてくれるのが農業の素晴らしいところです。高齢者施設では、外出するのもなかなか難しいと聞いています。そんな高齢者施設に室内水耕栽培室を導入してもらって、高齢者の皆さんが無理のない範囲でメロンづくりに関わってくれたら、よい気分転換の機会にしてもらえるのではないでしょうか。

水耕栽培の様子
もう一つ期待しているのが、農業全体への波及効果です。土で汚れる・きつい・しんどいといったイメージから、農業を敬遠する方は一定数います。室内水耕栽培なら、少なくとも土で汚れることはありません。LEDの熱を暑く感じる日もありますが、夏場50度近くまで気温が上昇するビニールハウスと比べれば、体への負荷はかなり軽減されます。極端な例かもしれませんが、スーツで出勤して、そのまま栽培室で作業をすることも、やろうと思えばできるでしょう。
そんな「新しい農業」なら、若い世代が関心を持ってくれるかもしれません。関心は全ての始まり。そこから未来の農業の担い手が増えていってくれたらと願っています。

このプロジェクトと私たちの未来を話しだすと止まりませんが、まずはおいしいメロンをきっちりお届けして、取引先様にご信頼をいただくことが大切です。そのためにも、検証と調整・改善をくり返し、メロンの品質向上を図っていきます。

メッセージ

社会課題解決に向けて、事業を起こそうと考えている方はまだたくさんいると思われます。
「社会課題解決」に関心のある「未来の仲間」へ向けて、メッセージをお願いします。

「工賃をはじめ、利用者さんの就労環境を大きく改革していきたい」。そんな思いから、今回のプロジェクトは始まりました。障がい者の就労環境問題、産業としての農業離れ、こうした現状を少しずつでも変えていければと思っています。

もしこうした考えに共感して、「一緒にやっていきたい」と思ってくれる方がいたら、ぜひ仲間になってほしいです。
室内水耕栽培のデメリットはやはり電気代ですので、省エネ化について一緒に取り組める企業さんと連携できれば嬉しいですね。もちろん、「私もメロンを作りたい」という農業仲間も大歓迎です。

株式会社ピーエルジェイインターナショナル

インタビューを終えて

今回の休眠預金等活用事業により、コロナ禍の環境下においても障がいのある方が実践できる「農福学産連携の室内水耕栽培」事業が生まれました。室内水耕栽培により、常に温度管理された作業場は身体的負担を軽減するとともに、作物の成長から喜び・やりがいを提供されています。
働くことに困難を抱えている人たちが、地域で暮らしながら安心して働ける場、居場所を失わない一つのモデルが創出できたと考えています。

そして現在、株式会社ピーエルジェイインターナショナルは、わたしたちが運営する「ふるさと応援クラウドファンディング -エントライ- 」で購入型クラウドファンディングにチャレンジされています。
無農薬栽培・農福連携への「関心」を、室内水耕栽培で育てた静奈シリーズの農作物のご購入により就労支援の「応援・参画」へ具現化させたい。「市場の拡大」と「利用者さんの最低賃金と同額以上の工賃支払い」を実現させるため、今回はじめてのメロンの一般販売、スプラウトにんにく、ミニトマトのセット販売に挑戦されています。
購入いただいた資金は、今後の静奈シリーズの開発・販売に活用されます。

静奈シリーズをより多くの方の手に取ってもらい、本事業の応援の輪を拡げるためにもエントライでのプロジェクトにも関心を向けていただければと思います。

以下ページより詳細のご確認が可能です。

農福学産連携で誰もが“自らの力で生き抜ける社会”へ
→【室内水耕栽培「静奈シリーズ」の開発・販売プロジェクト】詳細・募集ページ(募集期間:2023年6月20日〜8月20日)


また、7月7日に京都市内で開催する「地域事業者の資金調達と事業促進セミナー」に、本プロジェクトのプロジェクトオーナーである増田清氏が登壇されます。
農福学産連携でつくる静奈シリーズにかける思いを直接聞くことのできる貴重な機会となります。ぜひご参加ください。

→2023年7月7日(金)開催「地域事業者の資金調達と事業促進セミナー」詳細・募集ページ ※終了しました

 

株式会社ピーエルジェイインターナショナルの増田清さん、比澤敏彦さん、辰己浩平さん、ありがとうございました!

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