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Small talk ~紡ぐ~

2026年8月19日

【はじめに】TED Talkを見た留学生が、十数年かけて島根県SIBに辿り着くまで

1本のTED Talkから、十数年

大学の留学時代、1本のTED Talkに衝撃を受けました。Toby Ecclesの「Invest in social change」(TEDGlobal 2013)です。
Toby Ecclesはこう語りました。「英国では短期受刑者の63%が出所後1年以内に再犯する。彼らの平均前科は43件、平均服役回数は7回。立ち直りには職業訓練や住居支援やメンタルヘルスのケアが要るが、政府にその財源はない。ならば——政府は『成功したときだけ払う」契約を結べばいい。成果が出るまでの資金は、社会に貢献したい民間の投資家から集めればいい』。
こうしてEccles氏らは2010年3月、英国司法省とピーターバラ刑務所を対象に、世界で最初のソーシャル・インパクト・ボンドの契約を結びました。3,000人の対象者を1,000人ずつ3グループに分け、再犯率を10%以上下げられた場合にのみ支払いが発生する。達成すれば投資家は年利7.5%、それを上回れば最大13%のリターンを得る、という設計でした。
学生ながら、「こんなにスマートな仕組みがあるのか」と感激しました。

それから、いつかこれを日本でやってみたいと思い続けて十数年。デロイト・トーマツ時代、新規事業やNPO・NGO連携の仕事をしていた頃から本格的にSIBの実施を試み始めて、やっと夢が叶いました。

自治体に何十件と足を運び、1時間かけて「成果を問わず経費が流れてしまう従来型の官民連携のどこが問題か」「イギリスでは既に成果単価表(レートカード)まで整備されている」と熱く語っても、返ってくるのは決まって「勉強になりました。ですが少し複雑で大変そうなので、デジタルトレーニング関連の助成金でしたらこういうものがありますので、そちらの活用をご検討いただけますと……」という言葉でした。
首長からお墨付きをいただいても、生活支援・教育・就労支援を一体で動かそうとすると、部署をまたぐ調整が必要になり、そこで止まってしまう。誰かが悪いわけではありません。「新しいことに挑戦しても評価に反映されにくい構造」の中で、わざわざ複雑な仕組みを引き受ける動機が、担当者個人には設計されていない。そのことに気づくまで、ずいぶん時間がかかりました。

 

島根が、応えてくれた

そんな中、島根県は応えてくれました。
「金さんがそこまでやりたいなら、一緒に骨をうずめます」と言って3年間走り続けてくださった島根県庁の望月さん。後ろから押し続けてくださった三島さん。新任で驚かれたはずなのに最後まで一緒に通してくださった白岩さん。デロイト・トーマツ時代の仲間でもある山崎さんが部門採算度外視で伴走してくださり、江角さんが人をつなげてくださり、工藤さんに鯖ちらし寿司をご馳走になりながら励ましていただき、中西さんや川野さんという大学の先輩に支えていただき、Robo Co-opのメンバーが提案と応募を形にしてくれ、プラスソーシャルインベストメント株式会社の野池さん、正木さん、山崎さんに細部を詰めていただきました。ここに書き切れない本当に多くの方に助けられて、ようやく形になった仕組みです。

 

そしていま

2026年7月31日、島根県庁で出資者向け説明会と記者会見を開きました。緊張しました。そして、めちゃくちゃ楽しみでした。
→出資説明会の様子はこちら

成果を出さなければ、出資者の皆様に分配金が支払われないという緊張感はあります。でもそれは、自ら課したものであり、健やかなプレッシャーとして受け止めています。

風呂敷を広げるのは好きではないのですが、ここまでの過程で、世界銀行や国連、日本の関係省庁、韓国やスペインのソブリンファンド、そして国内外のインパクト投資家の方々と論点を突き合わせてきました。Wise spending——賢いお金の使い方とは何かを、そのたびに考え直してきたつもりです。
十数年前にToby Ecclesの話を聞いて感激した学生は、いま、その仕組みを自分の手で日本で実践しようとしています。

すこし複雑な仕組みです。だからこそ、一生懸命、ちゃんと説明したい。次の記事では、「なぜ公金は”確実なもの”にしか使えないのか」から始めます。私がSIBの実践を断られ続けた、その構造の話をします。

【島根県SIB 誰もがデジタルで自立する教育就労支援ファンド】
出資募集は2026年8月31日まで。出資に関する詳細・出資申込はこちら

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