1. ホーム
  2. Small talk ~紡ぐ~
  3. 【第6章】投票に行けない人でも参加できる民主主義がある 地域・企業・市民・世代を結ぶソリダリティボンド

Small talk ~紡ぐ~

2026年8月19日

【第6章】投票に行けない人でも参加できる民主主義がある 地域・企業・市民・世代を結ぶソリダリティボンド

出資金2万円が持つ、もうひとつの意味

第1回で「公金は確実なものにしか使えない」という構造の話をして、第2回で「失敗しても失敗にならない」設計を数字で示し、第3回で資金の合わせ技を説明し、第4回で世界の中の位置づけを整理し、第5回で企業にとっての意味を書きました。

最後に、いちばん大きな話をさせてください。
この仕組みは、資金調達の手法である以上に、新しい社会参加の形なのではないか。私はそう思っています。

 

参加できない人が、たくさんいる

社会に関わりたい、地域を良くしたいと思っても、その手段が限られている人がたくさんいます。

投票権のない外国籍の住民。まだ選挙権を持たない若い人。仕事や介護や育児で、平日の説明会にも週末のイベントにも出られない人。
そして、島根を離れて暮らしているけれど、島根のことを気にかけている人

正直に言うと、最初の1人は、私自身のことでもあります。
在日朝鮮人3世として日本で生まれ育ちましたが、地方自治体の選挙で投票したことは、一度もありません。
地域のことをどれだけ気にかけていても、制度としての参加の入口は、私の前では閉じています。

それでも今回、このソリダリティボンドを通じて、島根県という一つの地方自治の現場に、具体的な資金と設計をもって関わることができています。
投票できないことと、地域に関わることは、実は別の話だったのだと、この事業を組み立てながら気づきました

制度としての民主主義は、住んでいる場所と国籍と年齢で、参加できる人を線引きしています。
それは制度として必要な線引きなのだと思います。

でも、社会に関わる方法が、投票だけである必要はないはずです

2万円を出す。半年後、10人の受講生のうち何人が学びをやり遂げたかを、報告書で知る。成果に応じて、資金が戻ってくる。

これは寄付ではありません。成果を測る規律のある、参加の形です。
そしてこの参加には、住所も国籍も年齢も、あまり関係がありません。

 

県外の人が、島根の一部になる

今回のプロジェクトを進める中で、ふと気づいたことがあります。

地方の経済ニュースやローカルメディアは、実は地域外に住む読者の比率が高いことがよくあります。
地元を離れても、その土地のことは気にかけ続けている人が多いからです。

これは何を意味するか。
地域のことを気にかけている人の大半は、その地域に住んでいないということです。

出身者、進学や就職で出て行った人、旅行で好きになった人、家族の誰かがそこにいる人。
「関係人口」と呼ばれるこうした人たちは、地域にとって大切な存在ですが、これまで具体的な関わり方が限られていました。
ふるさと納税か、たまに帰省するか、SNSで応援するか。

出資という形は、その選択肢を一つ増やします。
成果が出るまで一緒に見守り、成果が出たら資金が戻ってくる
そしてまた次の案件に回せる。返礼品ではなく、成果報告が返ってくる関わり方です。

 

世代を結ぶ、という設計

もうひとつ、この仕組みが結んでいるものがあります。世代です

第2回・第3回で書いたとおり、この事業では卒業生が次の受講生のメンターやトレーナーになります。
訓練費800万円のうち213万円が、その卒業生たちの人件費です。

これは単なる美談ではなく、技術継承のモデルです。
教育の世界で「Train-the-Trainer(トレーナーを育てるトレーナー)」と呼ばれる形ですが、ここではもう少し踏み込んでいます。

教える人が、かつて教わる側だった。しかも同じ困難を経験している。
シングルマザーとして子育てと介護の合間に学んだ人が、いま同じ状況の人に教えている。
難民として不安定な環境で学び続けた人が、いま同じ境遇の人に伴走している。
「あなたにもできる」と言う言葉の重みが、外部の講師とはまるで違います

そして、この循環が回り続けるかぎり、支援は自己増殖していきます。
1期生10名のうち何人かが2期生を教え、2期生の何人かが3期生を教える。
外から資金と講師を投入し続けなくても、コミュニティの中から次の担い手が出てくる。これが、この設計が目指している持続可能性です。

 

デジタル民主主義との接点

もう少しだけ、視野を広げます。

近年、世界各地でデジタル民主主義の実験が進んでいます。
台湾では、市民がオンラインで政策議論に参加し、その合意形成のプロセスが政策決定に反映される仕組みが試みられてきました。
スペイン発のDecidimというオープンソースのプラットフォームは、いま世界中の自治体で市民参加のインフラとして使われています。

これらに共通しているのは、「意思決定に参加する人の範囲を広げる」という発想です。

私は、インパクトボンドもその系譜に置けると思っています。
デジタル民主主義が「声を届ける」参加だとすれば、ソリダリティボンドは「リスクを分かち合う」参加です。
意見を言うだけでなく、実際に自分のお金を置く。成果が出なければ、自分も損をする。

痛みを共有する参加のほうが、実は関与が深いのではないか。そう思うことがあります。

もうひとつ、加えたい視点があります。
第4回で書いた社会的連帯経済、そして協同組合という考え方は、本来「出資し、経営し、労働も担う」組合員だけが、リスクと意思決定を分かち合う仕組みです。
会員にならなければ、リスクも、声も持てません。

でも、このSIBの設計は、その輪をもう一段開いています。
Robo Co-opという当事者コミュニティのメンバーになる必要はありません
2万円を出せば、誰でもこの輪の中に入れます。

つまり、協同組合という発想を、組合員だけのものにしなかった。
リスクを分かち合う人を、コープの所有者に限定せず、みんなに開いた
協同組合の原理を、協同組合の外側にまで広げた、というのが、この設計にもうひとつ込めた意味です。

 

ソリダリティ(連帯)という言葉

第4回で、ヨーロッパは試すために、アメリカは広げるために、日本は結ぶためにインパクトボンドを使う、と書きました。
私たちがこの仕組みをソリダリティボンドと呼びたいのは、結んでいるものが多層だからです。

– 地域と企業 — 有償OJTの受け入れを通じて
– 企業と市民 — 企業版ふるさと納税と個人の出資を通じて
– 市民と当事者 — 出資という形で、顔の見えない誰かの半年間を支える
– 世代と世代 — 卒業生が次の受講生を教える循環
– 県内と県外— 住んでいなくても、島根の一部になれる

これらすべての結び目に、ひとつの仕組みが置かれている。それがこのプロジェクトの構造です。
血縁でも地縁でもない。でも、確かに人と人がつながっている。互助を、制度として設計する

第4回で書いたとおり、「ソリダリティ」という言葉は、協同組合が大事にしてきた社会的連帯経済の考え方につながっています。
そして「ボンド」には、財務的な結びつきと、人としての絆という、2つの意味が重なっています。
この事業を通じて紡がれているのは、お金の契約だけではありません

 

島根だけで終わらせない。

最後に、この先の話をします。

この仕組みは、島根県の、デジタル人材育成の、10名のためのものです。でもそれで終わらせるつもりはありません。
私が十数年前にToby EcclesのTED Talkを見て思ったのは、「どんなリスキル・アップスキルにも使える、プロジェクトファイナンスの型を作りたい」ということでした。
技術革新は加速しています。そこからこぼれ落ちる人は、これからさらに増えるでしょう。一方で、自治体の予算は逼迫し、課題は山積みです。
そういう時代だからこそ、挑戦しやすくて、地域にインパクトが積み上がっていく資金の型が要る

島根での半年間が終わったとき、私たちには成果指標のデータと、第三者評価と、10名の人生の変化と、その全部の記録が残ります。
それは次の地域が、次の分野が、この仕組みを使うための資産になります。

第4回で紹介した八王子市が、自分たちの試算ツールをExcelで公開して他の自治体に渡したように。
私たちも、この仕組みを開いていきたいと思っています

6回、お読みいただいてありがとうございました。
複雑な仕組みです。何十もの自治体で「少し複雑で大変そうなので」と言われ続けてきたくらいですから。
だからこそ、ちゃんと語り切りたいと思って、6回に分けて書きました。ここまで読んでくださった方には、本当に感謝しています。

もし、この仕組みに何か可能性を感じてくださったなら。
出資という形でも、企業として関わる形でも、誰かにこの記事を共有していただく形でも構いません。
島根で新しい一歩を踏み出そうとしている10人の背中を、押していただけたら嬉しいです。
出資の募集は、2026年8月31日までです。

一般社団法人Robo Co-op
代表理事 金辰泰

 

【島根県SIB 誰もがデジタルで自立する教育就労支援ファンド】
出資募集は2026年8月31日まで。出資に関する詳細・出資申込はこちら

この回の目次に戻る

Smalltalkの一覧へ戻る

Contact

お問い合わせ