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Small talk ~紡ぐ~

2026年8月19日

【第3章】ひとつの財源に頼らない、資金の”合わせ技” 企業版ふるさと納税 × SIB × キャリアインパクトボンド

先に断っておきます。今回はこの連載でいちばん専門的な回です。金融の話が出てきます。
でも、第1回と第2回を読んでくださった方には、たぶん自然に読めるはずです。「公金では試せない」「だから民間が先に立て替える」「その資金は当事者に向かう」——ここまでが腑に落ちていれば、あとは「そのお金をどう調達するか」の技術論だからです。
そして、ここが今回のプロジェクトで、いちばん時間がかかった部分でもあります。

なぜ、ひとつの財源では足りないのか

社会課題の解決に使えるお金には、それぞれ得意・不得意があります。
– 補助金・助成金は、確実性の高い定型事業に強い。反面、使途が細かく決まっていて、途中で設計を変えられない。
– 寄付は、自由度が高い。反面、継続性が読めないし、成果を測る規律が働きにくい。
– 投資は、規律と継続性がある。反面、財務リターンが見込めない領域には入ってこない。

社会課題の現場では、この3つが必要な場面が同時にやってきます。だからひとつの財源に賭けるのではなく、それぞれの得意なところを組み合わせる。これが今回の設計思想です。

 

1本目:ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)

これが今回の背骨です。
事業を実施する前に民間から資金を集め、あらかじめ合意した成果が出たときに、行政から成果報酬が支払われる。市民が出資者となり、成果に応じてその分配金が支払われる、という仕組みです。

島根県SIBの具体的な設計はこうなっています。成果指標は2つ。
– 座学 研修修了率(所定カリキュラムの受講+最終演習3つの提出) 目標:最低80%以上
– 有償OJT修了率(OJT案件への最後までの参加) 目標:最低60%以上

支払いは人数に連動します。
座学修了者1人あたり204,375円、OJT修了者1人あたり1,060,833円が訓練費として計上されます。座学8名・OJT6名でそれぞれ上限に達し、この時点が損益分岐の目安です。

目標を超えた分は、リターンとして上乗せされます。
座学9人目以降は1人あたり40,875円、OJT7人目以降は1人あたり79,563円が、投資家へのリターンとして加算されます。10名全員が座学・OJTを修了した場合の目標償還率は105%です。

つまり、成果が出れば出るほど、当事者への支払いも出資者への還元も増える構造になっています。

※なお、詳細な分配シミュレーションと、元本が毀損する可能性を含むリスクについては、エントライに掲載されています。出資をご検討の際は、必ずそちらをご確認ください。

2本目:企業版ふるさと納税

もうひとつの流れが、企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)です。
企業が自治体の地方創生プロジェクトに寄付をすると、税額控除と損金算入を合わせて、実質的な負担が大きく軽減される制度です。制度上、最大で寄付額の約9割に相当する軽減効果が見込めるとされています(具体的な控除額は企業の状況によって異なるため、必ず顧問税理士にご確認ください)。

ここで重要なのは、企業にとっての「実質負担1割」が、地域にとっては「10倍のレバレッジ」になるということです。企業が100万円を寄付すると、地域では100万円分の人材育成が動く。企業の実質負担は10万円程度。この差額を生んでいるのは、国の政策意思です。

そして今回のスキームでは、この企業版ふるさと納税を、地域財団やNGOを経由して地域に根付かせる設計を志向しています。企業から自治体へ、自治体から事業へ、という一方通行ではなく、地域の中に資金の受け皿と循環を作りたいからです。

3本目:キャリアインパクトボンドの発想

3つ目は、少し新しい考え方です。
キャリアインパクトボンドとは、個人のキャリア形成——学び直しや就労——に対する投資を、その人の将来の成果に連動させる仕組みの総称です。教育費を先に誰かが立て替え、本人が就労して所得を得たあとに返していく、という発想が中心にあります。

今回のプロジェクトでは、この考え方を「出世払い」ではなく「恩送り」の形で取り入れています。
生活支援費180万円を受け取った受講生に、金銭での返済を求めることはしません。その代わり、卒業後にコミュニティに残り、次の受講生を支えるメンターやトレーナーの側に回っていく。これが、この事業における「返し方」です。
第2回で書いた「訓練費800万円のうち213万円が、卒業生であるメンター・トレーナーの人件費」という数字は、まさにこの循環が実際に動いている証拠です。支援を受けた人が、支援する人になる。そしてそれは無償の善意ではなく、きちんと報酬を伴う仕事として設計されています。

これが「学びあい・稼ぎあい・広めあい」の「広めあい」の部分です。

そして、金融商品としての規律がある

もうひとつ、技術的ですが重要な点があります。
今回ファンド募集を行っている「エントライ」は、社会的投資に特化したクラウドファンディングのプラットフォームです。
一般的な寄付型・購入型のクラウドファンディングと違い、ここでは匿名組合契約という金融商品の形式で資金が集められます。契約締結前交付書面が用意され、リスク開示があり、分配シミュレーションが公開され、第二種金融商品取引業協会に加入した事業者が取り扱う。寄付の気軽さではなく、金融商品としての規制の上で運営されているということです。

なお、出資金は取扱者の資産とは分けて信託口座で管理されます。これは投資家保護のために金融商品取引法が求める、この種の金融商品では標準的な仕組みです。独自の工夫というより、規制の一部だと捉えるのが正確だと思っています。

これは面倒なことのようですが、実は決定的に重要です。これら規律があるから、次の案件につながる。成果が測定され、記録が残り、その実績をもとに次のプロジェクトが組成できる。1回きりの善意ではなく、積み上がる仕組みになるのです。

Toby Ecclesが言っていた3つの効用

第0回で紹介したToby Ecclesは、SIBがもたらすものとして4つの要素を挙げていました。この設計を見ていただくと、それが具体的に何を指すのかがわかると思います。

1. イノベーション — 誰にとっても負担の少ない形で、新しいアイデアを試せるようになる
2. 厳密さ(rigor) — 成果に向かって働くために、データを集めて検証せざるを得なくなる
3. 柔軟性— 使途を細かく縛られる通常の公的契約と違い、走りながらプログラムを調整できる
4. パートナーシップ — 公共・民間・社会セクターのどれが優れているかという不毛な議論ではなく、全員の専門性を持ち寄る構造ができる

特に3つ目の柔軟性は、現場にいると本当に実感します。事業計画のバージョン1.0がそのままうまくいくことは、まずありません。受講生一人ひとりの状況に合わせて伴走の形を変えていく余地があること。それが、成果連動型の隠れた最大の利点かもしれません。

「複雑すぎる」と言われ続けた理由

ここまで読んでいただいてわかるとおり、この仕組みは確かに複雑です。
自治体、事業者、出資者、取扱事業者、第三者評価機関、そして当事者。関係者が多く、資金の流れも一本道ではありません。私が何十もの自治体で「少し複雑で大変そうなので」と断られてきたのは、決して相手が理解できなかったからではなく、本当に複雑だからです。

でも、複雑なのには理由があります。単純な仕組みでは、単純なことしかできないからです。
補助金だけなら、決まったカリキュラムを決まったとおりにやるしかない。寄付だけなら、成果を測る規律が働かない。投資だけなら、この領域に資金は来ない。
それぞれの得意なところを持ち寄って、初めて「学びから就労まで一気通貫」という、本来やるべきだったことができる。その複雑さは、引き受ける価値があると思っています。

次回の記事では、この仕組みを世界の文脈に置いてみます。「ヨーロッパは試すために、アメリカはスケールさせるために、そして日本は結ぶために」——同じ道具が、社会によってこんなに違う使われ方をする、という話です。

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